大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

宇都宮地方裁判所 昭和60年(特わ)465号 判決 1987年4月24日

本店所在地

栃木県栃木市川原田町一三四一番地二

五月女総合プロダクト株式会社

(右代表者代表取締役 五月女博勇)

本店所在地

右同所

五月女産業株式会社

(右代表者代表取締役 五月女博勇)

本籍

栃木県栃木市平柳町一丁目一八四番地

住居

同市川原田町一三四一番地二

会社役員

五月女博勇

昭和一八年一二月二三日生

右の者らに対する各法人税違反被告事件について、当裁判所は、検察官田内正宏出席のうえ審理し、次のとおり判決する。

主文

被告会社五月女総合プロダクト株式会社及び同五月女産業株式会社をいずれも罰金七〇〇万円に、被告人五月女博勇を懲役一年にする。

被告人五月女博勇に対し、この裁判確定の日から四年間右刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

第一  被告会社五月女総合プロダクト株式会社は、栃木県栃木市川原田町一三四一番地二に本店を置く、遊技場経営、金融等を営業目的とする資本金三〇〇万円の株式会社であり、被告人五月女博勇は、右被告会社の代表取締役としてその業務全般を統括しているものであるが、同被告人は、同被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、売上げの一部を除外する等の方法によりその所得を秘匿したうえ、

一  昭和五六年八月一日から昭和五七年七月三一日までの事業年度における右被告会社の実際所得金額が二〇八三万九〇五六円であったのにもかかわらず、同年九月三〇日、同市本町一七番七号所在の栃木税務署において、同税務署長に対し、所得金額は零(欠損金額三一万六〇八二円)で、これに対する法人税額は零である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって不正の行為により右被告会社の右事業年度における正規の法人税額七七五万六八〇〇円を免れ

二  昭和五七年八月一日から昭和五八年七月三一日までの事業年度における右被告会社の実際所得金額が三五四二万二六四一円であったのにもかかわらず、同年九月三〇日、前記栃木税務署において、同税務署長に対し、所得金額は零で、これに対する法人税額は零である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もつて不正の行為により右被告会社の右事業年度における正規の法人税額一三八八万八四〇〇円を免れ、

三  昭和五八年八月一日から昭和五九年七月三一日までの事業年度における右被告会社の実際所得金額が一一二〇万二三五円であったのにもかかわらず、同年一〇月一日、前記栃木税務署において、同税務署長に対し、所得金額は零(欠損金額一二四万四八〇五円)で、これに対する法人税額は零である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって不正の行為により右被告会社の右事業年度における正規の法人税額四二一万九三〇〇円を免れ、

第二  被告会社五月女産業株式会社は、同市川原田町一三四一番地二に本店を置く、砂利、砕石、玉石販売等を営業目的とする資本金三〇〇万円の株式会社であり、被告人五月女博勇は、右被告会社の代表取締役としてその業務全般を統括しているものであるが、同被告人は、同被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、架空経費の計上及び売上げの一部を除外する等の方法によりその所得を秘匿したうえ、

一  昭和五六年一二月一日から昭和五七年一一月三〇日までの事業年度における右被告会社の実際所得金額が一二五三万九二六一円であったのにもかかわらず、昭和五八年一月三一日、前記栃木税務署において、同税務署長に対し、所得金額は零(欠損金額三八二万二五一九円)で、これに対する法人税額は零である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって不正の行為により右被告会社の右事業年度における正規の法人税額四二五万一六〇〇円を免れ、

二  昭和五七年一二月一日から昭和五八年一一月三〇日までの事業年度における右被告会社の実際所得金額が二五七六万一三九七円であったのにもかかわらず、昭和五九年一月三一日、前記栃木税務署において、同税務署長に対し、所得金額は零(欠損金額二八八万六三八五円)で、これに対する法人税額は零である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって不正の行為により右被告会社の右事業年度における正規の法人税額九八一万八五〇〇円を免れ、

三  昭和五八年一二月一日から昭和五九年一一月三〇日までの事業年度における右被告会社の実際所得金額が三一四五万一四三六円であったのにもかかわらず、昭和六〇年一月三一日、前記栃木税務署において、同税務署長に対し、所得金額は零で、これに対する法人税額は零である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって不正の行為により右被告会社の右事業年度における正規の法人税額一二五七万四三〇〇円を免れ

たものである。

(証拠の標目)

判示全事実につき

一、被告人五月女博勇(以下、被告人と略称する。)の

1  当公判廷における供述

2  検察官に対する昭和六〇年七月二三日付供述調書(検察官請求証拠番号乙1。以下、単に甲、乙番号で示す。)

一、収税官吏の五月女昌弘に対する質問てん末書(甲11)

一、右同作成の差押てん末書三通(甲3乃至5)

一、佐藤匡伸作成の答申書(甲156)

判示第一の各事実につき

一、被告人の検察官に対する同年八月一七日付(二通、乙11、12)及び同月二三日付(二通、乙13、14)各供述調書

一、収税官吏の被告人に対する同年二月五日付(乙2)、同月六日付(乙3)、同年四月四日付(乙6)、同月八日付(乙7)、同月二二日付(乙8)、同月二七日付(乙9)及び同年五月一日付(乙10)各質問てん末書

一、被告人作成の同年四月六日付答申書(甲32)

一、馬場美佐子(甲14)、高橋清一(甲16)、小倉義一(甲25)、外戸幸八(甲26)及び竹腰任央(甲29)の検察官に対する各供述調書

一、収税官吏の馬場美佐子(二通、甲12、13)、癸生川全巳(甲15)、小倉義一(二通、甲23、24)及び竹腰任央(二通、甲27、28)に対する各質問てん末書

一、右同作成の売上高(同年五月一七日付、甲60)、接待交際費(甲61)、福利厚生費(甲62)、雑費・管理諸費(甲63)、減価償却超過額(甲64)、事業税認定損(甲65)、欠損金の当期控除額(甲66、77)、申告欠損金額(甲67、78)、犯則所得計(甲68、79)、その他所得(甲69、80)、増差所得計(甲70、81)、代表者貸付金(甲71)、建物(甲72)、土地(同年四月二五日付、甲73)、減価償却超過額(甲74)、未払金(甲75)及び未納事業税(甲76)に関する各調査書

一、栃木税務署長作成の同年四月八日付(検一号、甲48)及び同月九日付(検一号、甲49)各証明書

一、登記官作成の商業登記簿謄本(検一号)(甲2)

一、押収してある売上等明細帳一冊(昭和六一年押第一九号の一)、ノート二冊(それぞれ57・8~58・7及び58・8~59・7と題するもの。同号の二及び三)、赤色小手帳四冊(同号の四)及び売上等記録伝票七冊(同号の五)

判示第一の一の事実につき

一、収税官吏作成の昭和六〇年六月八日付脱税額計算書(検一号、甲82)

判示第一の二の事実につき

一、右同作成の同日付同計算書(検二号、甲83)

判示第一の三の事実につき

一、右同作成の同日付同計算書(検三号、甲84)

一、高川賢一(同年七月二四日付、甲19)及び寺内清(甲22)の検察官に対する各供述調書

一、収税官吏の高川賢一(同年二月五日付(甲17)、同年四月一六日付(甲18)二通)及び寺内清(二通)に対する各質問てん末書

一、証人寺内清の当公判廷における供述

一、収税官吏作成の差押てん末書二通(甲222、224)

一、右同作成の領置てん末書(甲227)

一、押収してある済普通預金通帳綴り五冊(同号の一二)、営業中割数伝票入箱一箱(同号の一三)及び確定申告書(控)等綴り一綴(同号の一四)

判示第二の各事実につき

一、被告人の検察官に対する同年八月二七日付(甲30)、同月三〇日付(二通、甲31、32)、同年九月五日付(甲33)及び同年一〇月一二日付(甲34)各供述調書

一、収税官吏の被告人に対する同年四月二日付(乙16)、同月一六日付(乙17)、同月一七日付(乙15)、同月一九日付(乙18)、同月二三日付(乙20)、同月二四日付(乙21)、同月二六日付(乙22)、同月三〇日付(二通、乙23、24)、同年五月一日付(乙25)、同月二日付(乙26)、同月八日付(二通、乙27、28)及び同月一四日付(乙29)各質問てん末書

一、五月女英子(甲109)、高川賢一(同年八月一九日付、甲113)、金山武文(甲116)、片桐洋子(甲119)、塩川義行(甲122)、湧井善治(甲124)、酒井啓友(甲125)、柴坂暁郎(甲126)、高済恵治(甲127)、小沢進一(甲128)、原島勘一(甲129)、大野恵一(甲138)、岩崎和重(甲220)及び斉藤政宏(甲221)の検察官に対する各供述調書

一、収税官吏の佐藤匡伸(甲110)、外戸強(甲111)、高川賢一(同年四月一二日付、甲112)、金山武文(同日付、甲115)、五月女春男(甲117)、片桐洋子(甲118)、湧井善治(甲123)、渡辺栄市(甲130)、遠藤秀夫(甲131)、五十畑輝夫(甲132)、大橋和夫(甲133)、五月女利雄(甲134)、松井正敏(甲135)及び秋山正昭(甲136)に対する各質問てん末書

一、被告人作成の同年四月二六日付(甲139)、同年五月二日付(甲140)及び同月八日付(甲141)各答申書

一、五十畑輝夫(甲142)、小野田豊(甲143)、山野井祥二(二通、甲144、145)、平池秀之(甲146)、松本稔(甲147)、斉藤政宏(二通、甲148、149)、大阿久秀一(二通、甲150、151)、赤石沢巧(甲152)、原弘(甲153)、秋山正昭(甲154)及び柴田房夫(甲155)作成の各答申書

一、前記税務署長作成の同年四月八日付(検二号、甲159)及び同月九日付(検三号、甲160)各証明書

一、収税官吏作成の売上高(同年七月一日付、甲161)、仕入(甲162)、代車運搬費(甲163)、支払手数料(甲164)、給料(甲165)、車輌修繕費(甲166)、車輌燃料費(甲167)、固定資産売却損(甲168)、固定資産償却損・固定資産除去損(甲169)、固定資産売却益(甲170)、受取利息(甲171)、雑収入(甲172)、債権償却特別繰入(甲173)、事業税認定損(甲174)、欠損金の登記控除額(甲175)、申告欠損金額(甲176)、犯則所得計(甲177)、その他所得(甲178)、増差所得計(甲179)、普通預金・銀行預金・現金預金(甲180)、売掛金(甲181)、受取手形(甲182)、立替金(甲183)、長期貸付金(甲184)、代表者貸付金(甲185)、車輌運搬具(甲186)、土地(同年七月三日付、甲187)、買掛金(甲188)、未払費用(甲189)、短期借入金(甲190)及び債権償却特別勘定(甲191)に関する各調査書

一、登記者作成の商業登記簿謄本(検二号、甲100)

一、押収してあるBK売上帳一冊(同号の六)、ビック売上帳一冊(同号の七)、五日払一覧表二綴(同号の八及び一〇)、代車明細書綴一綴(同号の九)及び済預金通帳七冊(同号の一一)

判示第二の一の事実につき

一、収税官吏作成の同年六月七日付脱税額計算書(検一号、甲201)

判示第二の二及び三の各事実につき

一、証人岩崎和重及び同斉藤政宏の当公判廷における各供述

一、収税官吏作成の埼玉銀行栃木支店調査関係書類写し(甲58)

一、右同作成の未納事業税調査書(甲192)

一、前記税務署長作成の同年四月九日付証明書(甲229)

一、検察事務官作成の捜査報告書(甲230)

判示第二の二の事実につき

一、収税官吏作成の同年六月七日付脱税額計算書(検二号、甲202)

判示第二の三の事実につき

一、証人渡辺栄市の当公判廷における供述

一、収税官吏作成の同日付同計算書(検三号、甲203)

(争点に対する補足説明)

被告人及び弁護人は、本件各公訴事実のうち、所得額や所得の帰属などについて種々弁解し、被告人をはじめ、その関係者も公判段階になってそれに沿う供述をするが、右弁解はいずれも査察及び捜査段階では全くなされておらず、前掲の関係証拠と対比すると到底措信できないと解されるが、以下、本件の争点について若干補足して説明する。

一、判示第一(被告会社五月女総合プロダクト株式会社-以下被告会社プロダクトと略称する。)関係について

1  弁護人らは、検察官は判示第一の三の昭和五九年七月期につき、被告人が同年二月以降、パチンコ「シアター」店店長高川賢一に指示した同店での売上除外金額を赤色小手帳記載された数字(金額)をもとに算出しているが、右数字はあくまで被告人が高川に指示した売上除外(予定)額を示すものであって、同人が実際に除外した金額はその半分程度である旨主張する。

しかし、前掲の関係証拠によると、

(1) 高川店長は、被告人にとって義弟にあたり、一時、健康を損ねた同人はその後の就職の世話を受けるなど何かと被告人に恩義があるうえ、被告人の信頼も厚く、そのような立場にある同人がそもそも被告人の売上除外の指示に背いて右指示金額より少額の売上除外を行うものとは到底考えられないこと、(2) 被告人の高川店長に対する同店での売上除外の指示は、昭和五九年二月以降、最初は日を決めて個別的になされていたが、その後は一週間位の単位で金額を指示し、売上が多く割数の少ない日に除外を行うよう指示していたものであるところ、右指示に従って同人が売上げ除外を行った後、被告人において右金額を受取るつど赤色小手帳(昭和六一年押第一九号の四の昭和五九年度のもの。)に受領した日及び受領金額が分るように記入したものとみるのが自然であること、(3) 右同期における被告会社プロダクト経営にかかる系列店のグランド東急店での売上除外については、同被告会社が記帳していたS58・8~S59・7と題するノート(同号の三参照。)に売上除外をした日及び除外した金額が分るような記載が残されていて、後日でも真実の売上げが補足できるのに対し、前記シアター店については、同ノートの右同期欄には売上除外後の売上金額しか記帳されておらず、しかも同店での毎日の真実の売上を打刻した売上データー表は後日処分していたというのであるから、被告人において何らかの記録を残さない限り同店での真実の売上げを把握できないこと、(4) 押収してある営業中割数伝票入箱(同号の一三)に残存する昭和五九年六月及び七月分の同店での真実の売上データー表と前記小手帳の記載とを対照すると、同手帳には同年六月九日、同月一二日及び同月二一日の三日分を除き、同店での実際の売上除外額が記載されていること、(5) なお、被告人は捜査段階では同小手帳にシアター店の実際の売上除外額を記載していた旨自白していることなどから右主張は採用できず、シアター店では、先の三日分を除き、右小手帳の予定表欄の記載に対応する金額の売上除外が行われていたものと認めるのが相当である。

2  次に弁護人らは、右同月期につき、一時期前記シアター店の営業譲渡を受ける予定であった寺内清が昭和五八年一二月二三日から昭和五九年一月三日までの間に持ち出した金額及び同年二月と四月に被告会社プロダクトから持ち出した合計三九二万円は同被告会社の収入ではなく、したがって被告人は右金額について犯意がない旨主張する。

しかし、前掲の関係証拠によると、

(1) 被告人は、昭和五八年一一月末ころ、寺内清に対し、シアター店を六〇〇〇万円乃至七〇〇〇万円で営業譲渡することになり、同人から手付金として三〇〇〇万円を受領し、同店が新装開店した同年一二月二三日ころから一時同店の管理を寺内に委ねたが、その後同人が残代金を工面できなかったところから結局、右営業譲渡の話は立ち消えになったこと、(2) ところで、寺内が右営業譲渡に伴い同店の売上げ等を実質的に管理していたのは、前同日から翌五九年一月三日ころまであり、その間の売上げはもともと同被告会社の収入として計上されておらず、その後も同店は寺内が残代金を完済するまでは依然として同被告会社の所有であり、その売上げの管理は前記高川店長があたり、同人が同店での毎日の売上金を同被告会社事務所に持参すると、同被告会社ではそれを栃木信用金庫新栃木支店の同会社名義の普通預金口座(同号の一二参照。)に預金していたこと、(3) とくに昭和五九年一月四日以降も同被告会社が依然として同店の所有者であったことは、前記一の1のとおり、被告人が同年二月ころから高川店長に同店での売上除外をさせていることからも更に明白であり、寺内が同年二月一五日から四月一七日にかけて右口座から三回にわたり合計三九二万円を払い戻していることは事実であるが、それは、ひとたび同被告会社の収入となった金員からの持ち出しであって、その金額を差して同被告会社の収入ではないと言えないこと、まして被告人に犯意がないと言えないことは明らかであること、(4) なおまた、寺内が持ち出した右金員の趣旨は必ずしも明らかではなく、同人の捜査段階及び公判供述によると、右各金員は、同人が一度は自己が経営しようと思ったシアター店のために立替えた仕入代金及び経費の立替金等の返済並びに一部を自己の金利の支払のため持ち出したものと推測されるが、その後右金額が昭和五九年七月期の同被告会社の決算手続上も換金(仕入)代として損金に算入されたり、仮受金の返済又は寺内からの返金として処理されていることは右認定を裏付けるものと思われる。

したがって、右主張も採用できない。

3  更に弁護人らは、右同月期につき、シアター店の高川店長が簿外で同店従業員のために福利厚生費として支出した金員が経費として控除されていない旨主張する。

しかし、前掲の関係証拠によると、

(1) そもそも、右主張は、公判段階になってから初めてなされたものであって、被告人は、捜査段階において簿外の福利厚生費はここ三、四年多く見積もっても年間一〇〇万円を超えない旨供述していたこと、(2) 右主張に沿う被告人及び証人高川賢一の当公判廷における各供述は漠然としたものであって、その供述自体にわかに措信できず、他に右主張を裏付ける客観的資料等それを認めるに足りる証拠もないので、右主張も採用できない。

二、判示第二(被告会社五月女産業株式会社-以下被告会社産業と略称する。)関係について

1  弁護人らは、判示第二の二及び三の昭和五八年一一月期及び昭和五九年一一月期につき、株式会社東京商事(以下、東京商事という。)からの手数料収入は、被告人個人の収入であり、被告会社産業に帰属するものでない旨主張する。

しかし、前掲の関係証拠によると、

(1) 本件の手数料収入は、被告会社産業が昭和五八年四月ころ、東京商事に三〇〇〇万円を融資した見返りに取得した同社の会沢工場が生産する砕石の販売権と代車の優先的配車の権利に代わるものとして右両者で協議の結果取得したものであること、(2) 被告会社産業は、同社従業員を同工場に出向させて砕石の出荷量を管理すると共にその出荷料に応じて東京商事から一定割合による手数料を埼玉銀行栃木支店に設けた同被告会社の別名でその経営実態は右会社と一体であるビックエンタープライズ名義の預金口座に入金させて取得していたこと、(3) 東京商事においても、前記の融資を右ビックエンタープライズからの長期借入金として同社の決算報告書に公表計上している一方、被告人においても、捜査段階では、右貸金は被告会社産業が東京商事に貸したものである旨供述していること、(4) 更に、被告人は、昭和五八年及び翌五九年度とも右手数料を個人の所得として申告していないこと、などから右主張も採用できず、右手数料収入は被告会社産業に帰属するものと認めるのが相当である。

2  弁護人らは、判示第二の三の昭和五九年一一月期につき、藤坂砕石工業株式会社(以下藤坂砕石という。)からの三〇〇万円及び渡辺産業株式会社(以下渡辺産業という。)からの四五〇万円の各手数料収入は、被告人個人の収入であり、被告会社産業に帰属するものでない旨主張する。

しかし、前掲の関係証拠によると、

(1) 右の各手数料は、渡辺産業から実質上同社が所有する旧音坂砕石工業株式会社部の採石プラントの売り込みが被告会社産業にあったのに対し、同社ではその買取りを拒絶すると共に同業の藤坂砕石に右売り込みを仲介することになり、その後右仲介が成功して前記の両社間でその売買がまとまり、その結果、被告人が右両社から礼金として前記金員を取得したものであること、(2) 被告会社産業は、その後経理処理手続上、右各手数料を同会社の収入として処理していること、(3) 被告人は、その主張のように個人として右仲介を行ったのであるのなら、被告人個人名義の領収証を発行することは容易であったのにもかかわらず、手数料を受領した右両社に対し、被告会社産業の法人印を押捺した法人作成名義の領収証を作成して手交していること、(4) 藤坂砕石においても右手数料を被告会社産業に支払ったものとして経理処理していること、(5) その他被告会社産業の営業の目的として不動産売買及び仲介等も掲げられており、右手数料については、その後被告人個人の所得として申告がなされていないことをも考慮すると、右主張も採用できず、右各手数料収入は、同被告会社に帰属するものと認めるのが相当である。

3  弁護人らは、判示第二の二及び三の昭和五八年一一月期及び昭和五九年一一月期につき、ビックエンタープライズ名義でなされた取引が申告されていないのは、被告会社産業の経理事務を担当した田中会計事務所従業員の過誤によるものであり、被告人には犯意がない旨主張する。

しかし、前掲の関係証拠によると、

(1) 被告会社産業は、藤坂砕石工業からの砕石の買入れにあたり昭和五五年四月ころからビックエンタープライズ名義を使用するようになったが、右名義を使用した取引は、すべて同被告会社名義による取引とは別わくのBK売上帳に記帳され管理されていたこと、(2) 被告人は、昭和五八年一一月期から決算申告業務を田中会計事務所に依頼するようになったが、同事務所が行う右申告は、被告会社産業から提供された伝票類などを基に行っていたものであり、申告に先立って担当者から計上内容を被告人に説明しその了解を得てから申告をしていたこと、(3) ところで、被告人は、昭和五九年一一月中旬ころ、同年一一月期の申告業務を担当した同事務所員の岩崎和重から、それまでの同被告会社の収支の状況から繰越しができない欠損金が出る旨指摘を受けたところから、実際は同被告会社が取引を行いながら、前記のビックキエンタープライズ名義で別わくで管理していた東京商事からの手数料収入の一部を被告会社産業の収入として計上するよう同人に指示したが、その際、被告人から同人に対しビックエンタープライズの経営の実態等が被告会社産業と一体となるものであること等についての説明は一切なされていないこと、とりわけ、岩崎和重の検察官に対する供述調書に添付されている右同月期の申告にあたり作成された会計伝票の記載がその間の事情をよく物語っていること、(4) なお、被告人は、捜査段階ではビックエンタープライズ名義での取引につき、その取引量の増加にともない前記東京商事からの手数料収入については昭和五九年三月ころから、また、五十畑石材工業株式会社との取引については同年五月ころからようやくその取引の一部を被告会社産業の、取引として計上するようになった旨供述していること等から右主張も採用できず、被告人にビックエンタープライズ名義による取引による売上所得をほ脱する犯意があったことは明らかである。

(法令の適用)

被告人らの判示各所為はいずれも法人税法一五九条一項(被告会社については更にいずれも同法一六四条一項)に該当するが、各被告会社の判示第一の一及び二並びに判示第二及び三の各所為についてはいずれも情状により同法一五九条二項を適用し、被告人五月女博勇については各所定刑中いずれも懲役刑を選択し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、各被告会社については同法四八条二項により各罪所定の罰金の合算額の範囲内でいずれも罰金七〇〇万円に、被告人五月女博勇については同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い判示第一の二の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で懲役一年に処し、被告人五月女博勇に対し、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から四年間右の刑の執行を猶予し、訴訟費用は、刑事訴訟法一八一条一項但書により被告人らに負担させないこととする。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 榊五十雄)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例